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“Reply-To” の書き変えは有害と思われる

著者:Chip Rosenthal <chip at unicom.com>

メーリングリスト管理者への心からの訴え [1]

メールのメッセージは、メーリングリストに再配布される時に、いくらかの 処理が必要です。 最低限、配送エラーの通知がリスト管理者へ行くように、エンベロープを 書き変えなければいけません。 そのメッセージが処理されるとき、リスト管理者はメッセージヘッダを少し 書き変える (munge) [2] チャンスとして利用するかもしれません。

例えばループを検知するヘッダのように、いくらかのヘッダ書き変えは助け になります。 他のものは疑問が付きます。 多くのものは間違ってアドバイスされ、危険でさえあります。 多くのリスト管理者は リスト自体を指し示す Reply-To のヘッダを付け加え ようとします。この変更は最も間違ったアドバイスのひとつです。

管理者の中には Reply-To の書き変えは、ユーザがリスト全体に応答することを 容易にし、リスト全体の活性化に有効であると主張する人もいます。 この利点は間違いです。 それだけでなく、 Reply-To は有害な — そればかりでなく危険な — 効果を持ちます。 もし、あなたが Reply-To の書き変えをよいアイデアだと思っているのなら、 ここであなたの考えを変えることができればよいのですが。

最小書き変えの原理

電子メールの処理はとてもトリッキーです。 RFC-822 (日本語訳) の、 ARPA インターネットテキストメッセージの標準形式 を、時々は、通して読んでみてください。 ここには 濃くて乾いた こまごましたことが 47ページにわたって詰まっています。 多くの工学と考察がこの作品に入っています。 それでも RFC-822 は、十分に定義されていない特殊な環境での、 多くの隅を突いた条件を残しています。 RFC-1123 (日本語訳) は インターネットホストの実装要件 の文書 ですが、2ダースほどのページを追加して、不足分をいくらか補っています [3] 。 それから、MIME や、X.400 の対応付け、そして、ひとつかみの標準と取り決め — いくらかは文書化されているが、あるものは伝説として — があります。 電子メールの取り扱いはびっくりするほど複雑で、取るに足りないように聞こえる 小さな変更も 深い意図しない結果をもたらす かもしれません。

“最小書き変えの原理” は、あなたがトラブルを避けるのにとてもよい規則です。 あなたが何をしたいのか、何故そうしたいのか、そしてどのような影響があるのか、 を十分に理解していない限り電子メールのヘッダに変更を加えては いけない と 言っているのです。 書き変えの理由をはっきり述べることができて、その結果について完全に 理解しているのでなければ、やってはいけません。

“最小書き変えの原理” はこれから我々が議論することを避けるのに助けになります。 原理というものは破るためにあるのかもしれません。 しかしきちんと考えることで、自分がやってしまうはるか前に、ある種の心臓の痛みを 避けることができるのです。

それは何も付け加えない

Reply-To 書き変えはまともなメールソフトを使うユーザには 何の利益もありません。 人々はメールが簡単に “リストに返信” するようにと Reply-To を書き変えたいのですが、それは、既に簡単なのです。 たいがいのメールプログラムには2つの別々になった “返信” コマンドがあります: ひとつはメールの作者に直接返信するもの、 もうひとつは作者に加えてその他のリストになった受信者に返信するものです。 みすぼらしい バークレーメール (Berkeley Mail) [4] コマンドでさえ、10年前にこれが入っていました。

最近のメーラは、たいがいそれなりのものであれば、この機能を入れています。 私は Elm メーラ [5] を好んでいます。 Elm には別々になった “r)eply” と “g)roup-reply” のコマンドがあります。 もし、私がメールの作者だけに返信したいと思ったら、 “r” キーを叩きます。 もし、リスト全体に返信したいと思ったら、その代わりに “g” キーを打ちます。 ケーキひと切れ [6]

私がここで (そしてこの後でも) Elm を取り上げるのは、 単に私が毎日このメーラを使っているからにすぎません。 この手のサポートは Elm に限ったものではなく、普通にまともなメーラで あれば提供されています。 Pine メーラは、例えば “r” コマンドを使おうとすると、 直接 “全員に返信ですか?” と尋ねてきます。 これよりも簡単なことはありません。

どのメーラを選んでも、そのメーラに付いて来る詳しいマニュアルを読んでください。 よほど古くさくなったメールシステムに突き当たらない限りは、 似たような機能を持っているはずです。 そうであれば、元の作者だけにでもリスト全体にでも返事を返すように選択できる ということです。 メールヘッダを打ち込んでみても、これ以上簡単にはなりません。

それは、物事を壊します

それなりのメーラを使っていれば、 Reply-To の書き変えは何の新しい 機能を追加することもありません。 実際には、機能を 減らす ことになります。 Reply-To を書き変えると “reply-to-author” の可能性を壊してしまいます。 書き変えは、 “reply-to-group” の機能と同じ効果をこのコマンドにもたらします。 我々は何も新しい物を追加していません。取り去っただけです。 Reply-To の書き変えはやさしいことをしてくれるだけではありません。 害悪があるのです。有用なメールソフトの機能を働かなくしてくれるのです。

選択の自由

管理者によっては “どちらにしても、返信は全部 リストへ直接行くべきなのだ” と言って Reply-To の書き変えを 正当化 するかもしれません。 それは横柄なことです。 あなたは、メッセージに対する返信をどうしたいか、私が決めることを 許可するべきです。 もし、私が公開の返信をしたいと思えば、”g” キーを叩いて Elm にグループへの 返信をさせるように伝えます。 もし、私信としての返信がより適切であると信じるなら、 私は “r” で返事を出します。 どうか、私にメッセージをどう扱うかを決める自由を残してください。

私は帰り道を探せません

Reply-To ヘッダが一度書き変えられると、メッセージの作者に対して 直接返事をすることが不可能になるかもしれません。 Reply-To ヘッダは単なる気まぐれで考案されたものではありません。 メールのメッセージに用途があるために、そこにあるのです。 このヘッダを使うことで、重要な情報を失うことになります。

送信者が Reply-To ヘッダを入れるのによい理由がいくつかあります。 送信者 (つまり From ヘッダに出ている名前) はメッセージの元々の作者では ない かも知れません。 もし、返信が元々の作者でなく送信者に帰るべきであれば、 送信者は Reply-To ヘッダを入れることができます。 あるいは、送信者がそのメールを送信したアカウントでメールを受け取ることが できないために Reply-To を追加したのかもしれません。 メーリングリストに投げるメッセージに Reply-To のヘッダを 入れるにはいろいろな理由が考えられます。

もし、 Reply-To がメーリングリストで書き変えられたら、 元々の送信者が追加した価値が失われることになります。 Reply-To の書き変えはメッセージの送信者に到達することを 不可能にしてしまうのです。

オバカを甘やかして、真面目な人にペナルティ

残念なことに、まともでないメールプログラムは “作者に返信” と、 “グループに返信” の機能をを別に実装していません。 そんなオバカメーラのユーザだけが Reply-To の書き変えから 利益を得ることになります。 彼または彼女にとってはリストに直接応答することが簡単になります。

この変更は、しかし、まともなメールソフトを使う真面目な人に ペナルティを科すことになります。 これは損な取引です。 インターネットのリスト管理者として、我々は、まともなソフトを使うことを 奨励すべきです。 もし少数の人々が完全に返信アドレスをタイプする必要があって、 それ以外の人がメールソフトの機能を全部使うことができるのであれば、 “いいね!” と言うでしょう。 オバカソフトを使う人を甘やかすために、真面目な人にペナリティを科すような ことがあってはいけません。

最小仕事の原理

比較対照: Reply-To を書き変えると書き変えないリストで リストに返信するのに 私( Elm ユーザ) に必要な仕事

動作 ケース1:書き変え無し ケース2:書き変えあり
全員に 返信 “g” キーを 押す 多分 “r” キーを 押すが, 他の受信者 がいれば “g” キー かもしれない.
送信者 だけに 返信 “r” キーを 押す 元のメッセージ ヘッダを見て、送信者の メールアドレスを 書き出し、 “r” key の後に ヘッダ編集メニュー を出して To: のところにメール アドレスを書き込む。 そして、 Reply-To の書き変えで 正しいアドレスが 消されてない ことを祈る。

再度、あなたの好みのメールソフトはこの機能を違った形で実装している かもしれません。 それでも、簡単であることは間違いありません。 私は1番の箱を選びますよ、モンテさん [7]

最小の驚きの原理

私が “r” キーを Elm で押すときは、メッセージの作者宛に応答を送ります。 あなたが Reply-To ヘッダを書き変えると、あなたは私が期待するその動作を 全く違ったものに変えてしまいます。 このことであなたのメーリングリストにとっては特殊な雰囲気を作り出すことに なります。それは、驚きを増大する可能性を高めます。 私は人間性についての科学の勉強をしてはいませんが、驚きは堅牢なユーザ インタフェースの要素とは思えません。

個人宛のメールが時々 Reply-To の書き変えをするリストに放送されます。 それは経験的な事実です。最小の驚きの原理を破ることで起こることです。

最小のダメージの原理

ものごとが間違った方へ行ってしまったときのダメージについて考えてみましょう。 もし、あなたが Reply-To ヘッダを書き変えずに、リストの会員 [8] がリストでなく個人宛にメールを送ってしまったとすると、 彼又は彼女は「あちゃー、これはリストに送るはずだったよ。 コピーを私にも転送してくれるかい」と、フォローする メッセージを送る必要があります。 これは面倒なことですが、時々は実際に起こります。

さて、個人宛のメールが間違ってリスト全体へ放送されてしまったらどうでしょう? もし、メールが送信者のボスが不衛生だという文句だったり、彼又は彼女の ルームメイトのセックスライフについてだったりしたら、 単純な「あちゃー」では済まないでしょう。 フォローアップとして送れるのは、時間を戻したい苦笑い顔(けど、弱い)を 沢山付けるぐらいしか無いでしょう。 あるいは、ネコがキーボードで踊ってた(こっちの方がまし)という言い訳です。 さらに、新しい仕事/ルームメイト/歯のセット(一番あり得る) の広告を読み始めることでしょうか。

Reply-To の書き変えはカタストロフィックな失敗へと導きます。 もちろん、この手のダメージを作り出すのに Reply-To の書き変えが 必ず必要というわけではありません。 指がちょっと滑ればそれでいいのです。 しかし、 “最小のダメージの原理” を侵害してあげれば、この手の災害への 招待状を送ることができるのです。 責任感のある管理者であれば、このような極端なダメージをもたらす ような散歩道を作ることは避けるでしょう。

そして最後に ...

もし、あなたがまだ確信を持てないのであれば、 ここで最後のお願いをさせてください。 私は Elm メーラの開発チームに貢献しています。 私はユーザコミュニティから沢山の要望希望を見ることになります。 人々がどんな機能を欲しいと言ってきてると思いますか? Reply-To を無視する 第3の 返信コマンドです! 何故人々がそれを欲するのでしょう? もし、あなたが Reply-To ヘッダを付けることで、リスト会員に サービスをしているのだと思っているのなら、 それは自分自身をごまかしているのです。 あなたはリスト会員をみじめにしています。

リスト管理者の中には、これを読んだ後でも、 “それほど悪くはないさ。私のリスト会員はこっちがいいと言ってる” と、おっしゃるかもしれません。 もしそうなら、それはメーラの “グループに返信” 機能を勉強 したことがないためでしょう。 リストのゲートウェイでメールヘッダを書き変えてトラブルに巻き込まれる前に、 リスト会員を教育する努力をしてみてはいかがでしょう。

要約

多くの人たちが Reply-To ヘッダを書き変えたいと思っています。 彼らはそれが リストに返信 を簡単にすると信じて、リストの流れを 増やそうとしています。 実際には、それはないのです。それどころか悪いアイデアです。 Reply-To の書き変えは次のようなトラブルを引き起こします:

  • それは最小の書き変えの原則に反します。
  • まともなメーラの使用者には何の利益ももたらしません。
  • 返信をどこへ向けるかについてのリスト会員の自由を制限します。
  • 実際には、まともなメーラの使用者にできることを減らしてしまいます。
  • 重要な情報を削除してしまうので、メッセージの送信者に返信することが できなくなる可能性があります。
  • オバカソフトを利用する人を甘やかす一方で、 まともなメーラを使用する人にペナルティを与えています。
  • メッセージへの返信手続きを複雑化するので、最小の仕事の原理に反します。
  • メーラの動作を変更するので、最小の驚きの原理に反します。
  • 最小のダメージの原理に反して、極端にまずい — もっと悪い — 失敗モード に導いています。
  • あなたのリスト会員はそうして欲しいとは思っていません。 少なくともメーラの取り扱い説明書を読む人はそうは思っていません。

付録

あなたが迷っているのなら、はい、私もかつては Reply-To の書き変えは しゃれたアイデアと思っていました。しかし、今はもっとよくなりました。

私がメーリングリストを立ち上げる時は、全部書き変えていました。 ある日、私は事故で個人宛の秘密の返信を自分のクソリストのひとつに 流してしまったのです。 リストのオーナーがリストを正しく使うことができないのであれば、 リスト会員にそれができる保証は全くないことになります。 次の日、私は書き変えを止めました。

全体として、それはうまくいきました。 時々は間違って、誰かがグループに返信する代わりに直接作者へ返信して しまうことがありました。 多くの人たちは、しかし、どうなっているか追いつくのにとても早く、 融通性の良さを評価しているようでした。 それ以上に、間違ってリスト全体へ個人宛のメールが流れることは ほぼ聞いたことが無くなりました。

訳注

[1]“Reply-To” Munging Considered Harmful の日本語訳. (2011.12.13 by 菊地時夫 <tokio.kikuchi at gmail.com> )
[2]原文では munge という動詞を使っている。munge 自体がコンピュータ 関係の jargon である。munge で表せる「書き変え」の範囲は広いが、発音が 伝える語感を保って、日本語であえて訳語を探すと、「ゴニョゴニョする」の ようになるかもしれない。
[3]その後改訂されて、現在 RFC-5322 が Internet Message Format (インターネットメッセージ形式) に関する 最新の文書となっている。
[4]原文の Berkeley Mail (バークレーメール)のリンクは切れている。 インターネットに接続した最初の UNIX システムである BSD において使われた 文字インタフェースの mail コマンドのことを指す。 文字端末が使われている間はこれが事実上「標準のメールソフト」であった。
[5]原文のリンクは切れている。 多分 http://instinct.org/elm/ が長期に残ると思われるので リンクを付けておく。
[6]Piece ‘o cake. 意味不明 (^^;)
[7]Monte. 意味不明 誰でしょう?
[8]subscriber ... “購読者” であるが、ここでは Mailman での訳語 に揃えて “リスト会員” とした。